INTERVIEW 2023:SYS

SYS 5th single “ReNNegentropy Hard Romances” について、SYS-Can氏とのメールインタビューを実施いたしました。
(質問者:Gazio準構成員・双葉亭蒼月)

―― 新しいヴォーカルの方について教えてください。音楽を聴く限りでは、前任のFuyuさんを引き受けながらも新しい味を出していける素晴らしい方のように思われます。それとは別に、全く異なるキャラクターの方を迎えるという方向もあったと思うのですが、どのような経緯で新ヴォーカルを迎え入れられたのでしょうか?

Can 2019年にFuyuがMugenten Gardenの鳥居を潜って行ってしまってからSYSに必要な女声が欠落して居りました。
代わりを務められる者を方々探して呼びかけて居りましたが、世界的な流行り病の渦中でありましたので、口を塞がれ自粛させられた世界市民の中からは早々見つかる由も無し、金色の宇宙探査に出掛けあぐねるプリ御仁(死にましたが)の時、YOUTUBEに突如「DENSHIYOKU」のカヴァー作品がお勧め動画として現れました。

「仲畑有海(Umi Nakahata)」のDENSHIYOKUカヴァー、それは現代的な精巧なものではありませんでしたが、独自の工夫が凝らしてあり、何よりも歌唱は伸び伸びとしたハイトーンを持ち、透明な質感がとても良い作品でした。
SYSの活動規模からいうとこの様な反射に出会えること自体が驚きです。
DENSHIYOKUという作品のテーマそのもの、赤い翼が遠方で舞う姿を見たような気がしました。
独特な雰囲気を持つオリジナルアルバムを2枚発表している様ですし、他様々なアーティストへの歌唱提供もしているので実力は充分だろうと思い、早速、賞賛と次回作である今作への参加のオファーをしたところ、快諾頂き、今に至ります。
本人は気遣い屋で作家向きの人だと思います。何にも囚われず活動を続けて欲しいです。

―― これまでのアルバムでは、すごくキャッチーなフレーズがあって、はじめて聞いた時に、目の前で柏手を打たれたような爽快な驚きを感じました。今回のアルバムでは、一曲目が知っている曲だったこともあって、濡れた濾紙にポトリと落ちたインクが広がって、ふと気付くと美しい模様を描いているというスルメ型のよさを感じています。おかげで3時間もリピートしてしまいました。さて、これまでのアルバムとの比較において、曲作りやアルバム全体の構成として、今回特に意識されたことはありますか? また、もし可能であれば、各曲について簡単なコメントをいただけますか?

Can 「スルメ型」とは仰る通りです。
今作は総体的に情報量を多くし多層的な音像を形成すべく努めた作品となっておりますので、表面的な第一印象だけでは見えてこないものがあるでしょうし、繰り返し聞くことで違う景色が見えてくることもあると思います。
「レイヤード・へテロフォニー」と名付けましたが、要は渋谷のスクランブル交差点の様な感じです。
遠く離れていく程、其々関係の無い、違うものが重なる様にして一つの景色を作っていくということを音像によって表現したものです。
構成としては以前同様、メインテーマの作品と、裏テーマの作品と其々のリミックスの4層になっております。

各曲については簡単に
01. ReNNegentropy Hard Romances
メインテーマの曲です。
金色の宇宙の中で六道を輪廻する悲哀が描かれています。
陸空海を覆う宇宙の理の中、蓮の花咲く世界への憧憬を描きながら這い蹲る人々のリリックです。

02. Flat Field reFlex
ReNNegenのリミックス曲です。
六道を離れ、その存在が有るか無いかも知れぬフラットフィールドへ旅立つものたちの歌です。そこに涅槃なぞあるのでしょうか。

03. Romantic Encine
Bittersweetのリミックス曲です。
金色の宇宙開闢の景色を想う歌です。
宇宙を生み出した者のその一瞬の柏手の巨大さを想わせます。
誕生の円心、巡回しながらそこから乖離していく遠心。もしかすると宇宙の中心こそフラットフィールドなのかも知れません。

04. Bittersweet Hastronomie
裏テーマの曲です。
天部の憂いの歌です。
ReNNegenで這い蹲っていた人々が憧れた蓮の花咲く世界とはここではなかった。
こんなに高い所に来たとしても届かない宇宙の最果てがこの先にもあるのだという憂いです。

―― アルバムの1曲目はReNNegentoropy Hard Romanceです。これは.demoDiskにも収録されていた曲ですが、今回リアレンジして1曲目に選んだ理由は?

Can 先ず、「ReNNegentropy Hard Romance」は2009年の作品です。「DENSHIYOKU」や「Mugenten Garden」よりも古い作品でした。
前作「Mugenten Garden」の発表後、次回作を「ReNNegentropy Hard Romance」にすることは決めておりましたので、割と早い段階で制作は進んでいたのです。
その際、Gazioで販売した「.demodisk」に収録しておりましたので、サビのメロディを作り直し「ReNNegentropy Hard Romances」と複数形で表記することで別ヴァージョンとして、そこから派生していくイメージを残りの3作品として発表しようと考えました。

―― 心ひそかにSYSの歌詞にはいつも感心しています。日本語では韻をそろえるとださださになってしまう面もあると思うのですが、SYSの場合、語呂合わせ的に見えるフレーズが、物語的に集約しそうなイメージを強引に解放するような、爽快感のあるものになっていると感じます。歌詞を作る上で何か意図したり、参考になさっているものはありますか? また、もしよろしければ、好きな作家や詩人、作詞家がいればお教えください。

Can 歌詞については一貫して洒落ようと思ってます。
女声を使って普段言えないことを言っちゃおうという意図もありますが、駄洒落やジョークが好きなものですから、小粋なことを言いたいだけです。野暮な言い方ですが。

それこそ中期のP-modelなどは影響を受けておりますし、勇気をもらっています。
「気障でも野暮よりは良い(立川談志談)」というのも心に刻んでおります。

―― 前作、前々作では、複数の曲の間で語呂合わせ的な命名も見られましたが、今回は個々の曲として命名されているようです。前回までの命名も含めて、曲名を付ける時に意識していることはありますか?

Can SYSではFixionをテーマの一つにしており、現実とは似て非なるもの、有る様で無い様なものを表現する為、基本的には一般名詞にならないように意識しております。
その上でメイン曲は主たるテーマを持って作るのでテーマに沿って名付けます。
リミックス曲などは、原曲有りきですから、原曲名の駄洒落から生まれることもあります。
今作については4層の視点がありましたので其々違った名前を持っています。

―― 思うところあって、今回のアルバムをスピーカー、ヘッドホン、イヤホンで聴き比べをしてみました。その結果、イヤホンで聴くのに適したミックスであるようにも感じました。そういう点では、若者向け(?)を意識されたのかな、という気もします(笑)。音楽の聴取方法も大きく変わってゆく中、リスナーがどういう聴取環境で聴くのかということについては意識なさいましたか? また、今回の音作りのポイントは?

Can 「イヤフォンで聴くのに適したミックスのように感じた」というのは細かく聴けて、且つ音量も上げられるからだと思います。
先程も答えたように今作では「レイヤード・ヘテロフォニー」を実現すべく作業を進めました。
結果、POPセオリーとしては落第でしょうが、一般的なバランスのミックスにはなっておりません。
我々としては、この作品を体験する為に一番理想的な方法はスピーカーで爆音で再生し、音像に包まれながら聴くことだと思います。
この方法は日本の住宅事情では中々難しいことなのは百も承知です。
しかし、再生環境によって音楽表現が肩身の狭い思いをすることはあってはならないことだと思います。昨今のオーディオ事情へのアンチテーゼとしても提示しております。

―― 雲丹雲がまた開かれますね。前回2016年のインタビューでは、沖縄のミュージックシーンについて、「紫」あたりからのハードロック的な流れが強いということをおっしゃっていましたが、現在の状況はどうですか?

Can 世界的な流行り病のせいもあり、僕自身が現場から離れているせいもあって、詳しいことは分かりませんが、ロックカルチャー(クラシックロックからメタル、ハードコアまで)は相変わらず、根強く残っているようです。イベントの数も多いですが面子は代わり映えしておりません。
アニソンやボカロ等オタクカルチャーもありますが、ある程度で落ち着いてきている印象です。
HIP HOPも一瞬の隆盛も落ち着き其々が住み分けてきたという印象ですね。

表現側の勢いが落ちているのは確かなことです。
若い世代で上手い子は少々居るようで、そこから人気者は出てきそうですが、ワクワクするような独自性のある新しいものは殆ど生まれてない様に見えます。
鑑賞側はコンテンツ不足を「その他」で埋めるだけなので、音楽シーンへの期待も薄いのかも知れません。
我々も期待しているわけではありませんが、シーンの醸成は暫く叶わないと思われます。

―― 仕事で沖縄を訪れる機会がありました。何でもそうなのですが、行ってみたらマスメディア等で流されているイメージとはだいぶ異なる印象を受けました。ソーキそば、おいしかったです。さて、SYSの音楽をはじめて聞いた時に、沖縄なんだ!?(←これこそ沖縄に関する固着したイメージの産物なのですが)と驚きつつも納得したことが、羞ずかしくも思い起こされます。とその一方で、音楽における地域性というのもまた存在すると思います。もしSYSに地域性というものがあるとすればどのような点にあると思われますか?

Can 無い訳は無いでしょうけれども、地域性の有無については我々自身、特に意識しておりません。
何処に居ても同じスタンスでやるでしょう。
あ、Hatouchouという曲は地域性が出ているかも知れません。

―― ありがとうございました。

 “ReNNegentropy Hard Romances” GAZIO WEB SHOPにて発売中

http://dotsys.jp