INTERVIEW:SYS

沖縄で活動する男女デュオ構成のテクノユニット「SYS」。まだ一般にはほとんど知られていない彼らだが、演者としての彼らがすでに相当なレベルにあるのは、つくば時代のCafe GAZIOで確認済みだ。

ボーカルを中心にしたポップな曲調、無線の送話器に向かって歌うようなハンドマイクスタイル、そして何よりシャープな彼らのビジュアルは印象深い。にも関わらず、デモ以外にまだ公式の音源は存在せず、ネット上にもほとんど情報がないのだ。

SYS

# 現在のSYSはCan (Synthsizer/Vocorder)、Fuyu (Vocal/Synthsizer)のデュオ編成。共に80年代生まれで沖縄県在住。SYSとしては、第2回GAZIO文化祭クロージング(2015年1月18日)、gEOgAZIOオープニング(2015年5月4日)、GAZIO LAST PARTY(2015年12月20日)と、Cafe GAZIOに3度出演している。

では、彼らは沖縄で、どんな活動をしているのか。そしてSYSはどういった背景から生まれ、現在どのような活動をしているのか。ネット上の情報を補完する目的も兼ねて、SYSの2人とGAZIO店長You1氏を交え、SYSに関する諸々をSkypeで訊いてみた。

まずSYSというユニット名から。母体となるユニットの結成は2005年。その当時は今とは、まったく違うスタイル、そして名前で活動していたらしい。

(取材日時:2016年1月1日 13:00-14:30)

 

# SYSのデモ音源のダイジェストと、2015年12月20日に行われた『GAZIO LAST PARTY』のライブの映像

 

■さわやかヤクザスポーティ時代

―― ネット上にSYSの情報がほとんどなくて困ったんですが、mixiにはコミュニティがありました。ご存知でしたか?

Can 知りませんでした。すごいリサーチ力ですね。

―― 検索してもそれくらいしかヒットしないんです。それによりますと、SYSは「さわやかヤクザスポーティ」の略称らしいんですが、これは本当ですか?

Can 本当です。冗長で説明するのに手間がかかり過ぎて、皆さんにお知らせしにくいなと。ちょうどメンバーも変わった2008年頃、これから頑張ろうということで、SYSに略したんです。

―― 元の名前だとメジャーになった時にテレビで放送しにくいですよね。

Can まあ、そういうのもありまして。

―― では、さわやかヤクザスポーティとは何でしょう。オリンピック招致委員会に喧嘩でも売っているんでしょうか?

Can いや、そういうことは別に。スポーツヤクザの「さわやか」という方がいらっしゃるんですけど。

―― さわやかという方?

Can あ、検索しても出ませんよ、絶対。『さわやかスポーツヤクザ』という漫画が高校生の頃にあってですね。

Fuyu Canさんが描いていた漫画なんです。

SSY

# Canさんによれば“『さわやかスポーツヤクザ』は、若くしてスポーツ組の頭領になってしまったスポーツヤクザの「サワヤカ」が繰り広げる不条理世直し活劇”とのこと。このSYSの起源とも言える漫画のメインキャラクターを、2016年元日、わざわざCanさんに描き直してもらったのが、この画像

―― あ、なんだ。

Can 高校二年生の、科学の授業の時に描いていました。それは僕のあこがれを描いたもので、僕の原点みたいになっています。

―― では、そのさわやか時代は、どんな感じでやっていたんですか?

Can YMOのコピーとかですね。僕と、どラムと、ギターが居て。ドラムは僕の小学校からの同級生で、目立ちたがり屋さんで。

―― それは上手くはないって事ですか?

Can 上手くはないですけど、フレーズが面白かったんです。素人で経験のない人が、まったく新しいことを仕出かすという感じの。

You1 ちょっと田井中みたいですね。

―― そういう差し障りのありそうな事を言うのは止めてください。で、ドラムが田井中さんで、ギターは?

Can ヤング・ギターとかBURRN!とかを愛読しているようなメタラーで、北欧のメタルが大好きで。

―― 一体それでどんな音楽になるんですか。

Can YMOのコピーをしながら、めちゃくちゃな事をやるという感じです。『東風』なんかを演っていたんですけど、ホントめちゃくちゃになっていって、何を演っているのか分からなくなってきて、止めたんですけど。

 

■沖縄には友達が居ない

―― さわやか時代は、まだFuyuさんはいらっしゃらなかった訳ですが、彼女とはどのようにしてお知り合いになりましたか?

Can 女性ボーカルを募集していたんです。めちゃくちゃなことをやりつつ、ポップな曲も作ってはいたので。それでFuyuは、さわやかのドラムの子の、彼女の、妹なんです。近場から採掘してきたという。

―― つまり、Fuyuさんから見たCanさんは、お姉さんの彼氏の友達ということですね。SYSに参加する前のFuyuさんは、どんな感じでしたか?

Fuyu もともと楽器をやっていたとかではないんです。歌うことが好きという単純な理由からで。SYSはライブを観たことがあって、めちゃくちゃだけど、この人達カッコいいなと。その時にボーカルを募集していると聞いて、一緒にやって大丈夫だろうかと、一応迷ったんですけど。

―― 入っちゃったんですね。

Fuyu 学生時代にテクノという音楽には触れてこなかったんです。王道なJ-POPくらいしか聴かない感じで。なのでSYSを観た時には、この人達、一体何をやっているんだろうって。沖縄にはなかなかいないというか、めちゃくちゃでしたね、キーボード殴るわで。

―― そういえばコントローラーのキーが折れまくってましたけど。

Can ピアノの鍵盤みたいに、タッチの重いキーボードをフルウェイテッドハンマーアクションと言いますが、僕は腕にフルウェイテッドしているんです。ベロシティ(※1)が127で鳴るように一生懸命叩く。

(※1)ベロシティは入力の強さを示すMIDIノートメッセージで、その最大値が127

―― ベロシティなんてコントローラーでいくらでも設定できますけど。

Can まあそうですけど、肉体と楽器をつなげたいなと。折れている鍵盤を直すのに2万円かかると言われて、そこから直してないです。

―― SYSに入っちゃったFuyuさんは、大丈夫でしたか?

Can しばらくは歌わせてももらえなかったもんね。声があってもほんの少しみたいな。

Fuyu 入って1年くらいはキーボードというかシンセ。ワンフレーズ歌うくらいの曲しかなくて、何のために入ったのかなとは思っていたんですが。

―― それは新参者に対するイジメみたいなものですか?

Can いえ、そういう訳ではなく。ステージ慣れも何もしていなかったので、とりあえず立たせてみようということで。

 

■「SYS」への移行から現在まで

―― Fuyuさんが入った2008年から、SYSになったわけですね。

Can はい。それでまともに活動してみようということで。沖縄ライブハウスツアーみたいなのを組んで、一年がかりくらいで沖縄のほとんどのライブハウスを回ったんです。この間に、先にメタラーのギターが抜けておりまして、ドラムと3人でツアーに出ている間に、新しくギターのしゅうたが入って4人になったのです。それでツアー後、早々にドラムが辞めて3人体制になりました。そうやってライブハウスを回ると、シーンの様子が分かってくるんですけど、まあ予想通り沖縄はダメだから、もっと頑張ろうということになって。

―― ダメというのは?

Can お客さんの手応えがなかったんですよ。

Fuyu 演奏が終わった後は、みんなポカーンとしています。

Can 何を観たのか理解してないんじゃないかと思うんですけど。

―― 沖縄でテクノは珍しいとか?

Can ですね。ミュージシャン同士の関わりあいとかもないですし。

―― 友達居ないってことですか。

Can 友達居ないです。

―― 僕らも沖縄と言うと、いまだに紫とかコンディション・グリーン、良くてCoccoくらいのイメージですが、なんでテクノの人はいないんでしょう。

Can やっぱハードロックとメタルの歴史が長くって。

―― ああ、まだ米軍の影響が強いと。

Can なので、モテる音楽がアメリカの音楽なんです。メタルとか演っている方がガイジンの友だちが出来るし、イベントにビールも飲みに来てくれる。

―― じゃあアメリカ人から引き込んで行かなくちゃならないんですね。

Can でも、沖縄に来るのは海兵隊なんですよね。

―― ああ、海兵隊はねえ……。

Can なので、地元で暮らしている人たちはいるわけですから、そういう人たちが分かってくれたらいいんだけど。

―― いまの形で地元でも演奏しているんですよね?

Can いまの形になってからは、2回くらいしか沖縄ではやっていないです。

―― あれっ、どうしてですか?

Can 3人だった頃に、3年くらい、ずっとイベントをやっていたんです。半年に1回くらい、アートフェスティバルを。

Fuyu 音楽だけじゃなく、演劇とかインスタレーションとか。

Can そういうイベントを半年がかりで作ると、自分たちの事をやる暇が全然なくなっちゃって。これじゃあ曲もできないし、新作も発表できない。それで2013年を最後に、そのイベントを止めたタイミングで、ギターも辞めて、ちょっと時間ができたから、僕たち自分の事を見なおそうと。いま態勢を整えているような感じです。

http://voguevogue.orc-r.com
# 2013年までCanさんたちが運営していた、VogueVogueアートフェスティバルのwebサイト

 

■遠くの街での反応

―― 今はクラウチングしているところだったんですね。では、GAZIOにつながる接点は何だっんですか?

Can 山城香奈さんという沖縄の絵描きさんがいまして、GAZIOの文化祭に新作を出展するというので、仲間とみんなで一緒に観に行こうと。

―― 山城さんは沖縄では有名な方なんですか?

Can 浦添市にGrooveというライブハウスがあるんですけど、そこがスケジュール表や、ミュージシャンのインタビューを載せるフリーペーパーを作っていて、その表紙を山城さんが何年もずっとやっているんです。だから山城さんの絵を見たことがある人は多いと思います。絵描きとしても精力的に活動されているので、信用はすごくあります。

https://twitter.com/groove_gacha
# 浦添Grooveのwebサイト。フリーペーパーのタイトルは『ちかちゃん』。浦添Grooveは地下にあるらしく、ちかちゃんは表紙のマスコットキャラクターの名前でもあるらしい。

―― では、GAZIOの文化祭に山城さんが出展したのは?

You1 応募してきたんだと思いますよ。けっこう大きな作品だったんですけど、展示したらなかなか存在感のあるものだったので、じゃあ個展やりましょうと。細密な女性画なんですけど、女性にありがちな繊細過ぎて弱いところがなくて、グラフィカルな感じもあってね。

Can 手書きで幾何学模様なんかも描く人です。それで初GAZIO体験をして、こんな所にこんなものが出来たんだと。

―― SYSの皆さんは、GAZIO自体はご存知だったんですか?

Can ツイッターなんかで見ていて、何だろうとは思っていました。それで山城さんに「個展のクロージングにソロで出てくれないか」と言われて。でもお店的に、僕なんか大丈夫なんですかと聞いたら、大丈夫みたいということで。

GAZIO_2014_Can

# 2014年8月24日、山城香奈さんの個展『幾何学の奉納展』クロージングパーティで演奏するCanさん。ソロ形態で、歌はボコーダー。演奏中にFuyuさんと電話でつないで、サイコロを振ってもらいながら、出た目で進行を変えていたらしい

―― You1さんはそれを見て「おお、これは」と思ったんですか?

You1 いや、その時はそんなでもなかった。

―― あれっ。

You1 その次のライブの企画をした時にね、誰かフットワークの軽い人は居ないかなと思って。SYSにやってもらえないかと。そしたら予想外に面白かった。とにかくボーカルのFuyuさんが入った時点で、見違えるようになっていたと。

Fuyu イエーイ!

―― つまりCan君じゃダメだと。

You1 いや、そういう訳じゃないけど、華があったんだよね。

Can あー、良かった。

# 2015年5月4日、GAZIO2周年イベント『gEOgAZIO』のオープニングで演奏された『DENSHIYOKU』の映像。シーケンサーはWindows版のCubase。CanさんのメインシンセはRADIAS 、エフェクターはKAOSS PAD 2。マイクは無線用のASTATIC (中身はSHUREのSM10A) をボコーダーに接続。FuyuさんのマイクはElectro-VoiceのBLUE RAVENをスタンドマウントを外して使用し、iKAOSSILATOR、およびKORG microKONTROLでSynth1やSteinberg HALion等のソフトウェア音源を演奏。ボーカルはピッチコレクト等のエフェクトをリアルタイムで処理している

You1 The Knifeというバンドを知っていますか?

Can いえ。

You1 北欧のユニットなんだけど、それが面白くて、日本でこういうことが出来る人って居ないかなと思っていたのね。で、SYSを見た時に、こっちの方に行ったら面白くなるかも知れないなと。期待をかけつつ静観していたという感じ。

―― じゃあYou1さんは、SYSの音源は聴いていたんですか?

You1 いや。

―― それで呼んだんですか。チャレンジャーだなあ。

You1 うん、GAZIOだから。

Fuyu あはははは。

Can でも、ほんと良かった。沖縄で友だちがいないもので、あんな遠くの街まで行って、これだけ言われるのが、どれだけ有難いか。

http://theknife.net
# The Knifeはスウェーデンの兄妹デュオ。最新曲”WITHOUT YOU MY LIFE WOULD BE BORING”のビデオはSNSでも頻繁にシェアされていたので、見た方も多いのでは

 

■2016年は仕掛けていきたい

―― では、これからどうするかという話です。

Can こちらも態勢が整いつつありますので、16年は仕掛けていきたいなと。

You1 なんかもったいないもんね。向こうにいて、このまま誰にも知られない存在であるのは。

―― 沖縄で活動のベースを築いた方が、経済的負担を考えても良い気がするんですが、それは悪戦苦闘済みなわけですよね。

Can はい。でもやろうと思っています。東京にも、何かお祝いがあったら駆けつけますので。

―― またGAZIOが潰れたらいいんですよね、そのどさくさに紛れてまた色々と

You1 やめてくださいよ、お金かかるんですから。まあ、それはさておき、GAZIOでwebショップもやるんで。

Can 音源はしっかりしたやつを作りますよ。

You1 新曲も入れてね。

Can はい。

―― では今年以降のSYSの展開に期待しましょう。

http://dotsys.jp
# 2016年1月、ようやく稼働を開始したSYSのwebサイト